ましゅーましまし

LARPとフォントとTRPGと日本語配列とマダミスとキーボードと(電子ペーパー)ディスプレイと自由の話

マダミスとLARPの距離

この記事はLARP Advent Calendar 2020の13日目の記事です。

マダミスとLARPの距離を問う理由

ここ2年くらい一部でとても流行っているマーダーミステリーゲーム(マダミス)という遊びと、マダミスと似ているようにも見えるLARPという遊びの関係について書いていきます。

さて、「マダミスはLARPなのか」という問いがされなくもないくらいには似ているように見えるこの二つの遊びですが、その関係についてまとめた文章はまだ無いようです。これは、LARPとマダミスの双方を経験している人はそこまで多くないからでしょう。とくにLARPの経験者数は少なく、さらにコロナ後はLARPの開催数が激減していますので、マダミスの経験者がLARPを試してみるというのが難しいのが現状です。

ですので、LARPとマダミスの双方について、企画・開催側含めた経験のある者として、この2つの遊びの距離について、少し説明してみることにします。*1 *2

マダミスとLARPの距離:結論から

マダミスとLARPは、遊びの分野として、お隣な遊びです。

どれくらい距離が近いお隣というべきかは、LARPの種類により異なります。LARPのうち、群像劇LARPであれば、「マダミスと人狼の距離」や「マダミスとTRPGの距離」よりは近いお隣です。*3

また、LARPという言葉の指し示す範囲はときに広く、LARPという言葉の捉えようによっては、マダミスの少なくとも一部についてLARPの一種であるといおうと思えばいえます。でも、そのように呼ぶ実益はほとんどありません。

  • マーダーミステリーゲーム(マダミス)が遊びのジャンルを示す言葉としてすでに一定の知名度を持っているので、マダミスより知名度が低いLARPという用語を使う必要がない。
  • LARPの範囲はマダミスに比べると曖昧なので、「LARPでもある」という発言は、より端的な「マダミスである」という発言に比べて情報量が少ない。

からです。

マダミスはどういう遊びか

マーダーミステリーゲームは、おおむね以下のような遊びです。*4

  1. 複数人の参加者がいて、それぞれにキャラクターが割り振られ、そのキャラクターに関する設定書が渡される。
  2. 各参加者は、自分の設定書を読み上げるのではなく、自分なりにキャラクターとしての発言に直して発言する。
  3. キャラクターのうち1人は殺人事件などの「犯人」であり、そのことを隠している。
  4. 「犯人」以外は、事件や各キャラクターに関する証拠や証言、そして各キャラクターが持つ情報などを利用して、犯人が誰かについて議論しながら推理していく。
  5. ゲーム時間の最後には、犯人を当てるための投票を行い、犯人を当てられれば勝ち。*5
  6. 「犯人」は犯人でないフリをしながら推理に関する議論に参加し、犯人として投票されないように行動し、逃げ切れば勝ち。

マダミスはさらに行動力チップに基づく情報カードの獲得や参加者の一部だけで行う密談、犯人の発見・逃げ切りに加えて独自の目標達成を点数で評価するといった要素がある「オープン型」と、参加者が一斉に議論に参加し、アクトごとに自分のキャラに関する情報が追加で開示される「クローズド型*6」に大別できます。

LARPはどういう遊びか

LARPはライブ・アクション・ロールプレイング・ゲームの略で、「らーぷ」と読みます。一定の設定を持ったキャラクターを演じながら遊ぶゲームですが、その内容は多様です。

まず、一定のシナリオやストーリーが準備されている「シナリオLARP」あるいは「ストーリーLARP」と、サバゲー場などで戦闘を中心として楽しむ「コンバットLARP」に大きく分けることができます。

「ストーリーLARP」はまた、自分でキャラクターを作成し、場面転換を挟みながらチームとしてシナリオを攻略していく「シナリオクリア型LARP」*7と参加者に設定が配られ、参加者間のやりとりから生まれる多様な展開が重視される「群像劇LARP」*8、そしてWebでチャット形式で進められる大人数型の「Web LARP」に分けることができます。*9

これらのうち、マダミスに近いのは群像劇LARPです。

群像劇LARPはどういう遊びか

群像劇LARPは概ね以下のような遊びです*10

  1. 複数人の参加者がいて、それぞれにキャラクターが割り振られ、そのキャラクターに関する設定書が渡される。
  2. 各参加者は、自分の設定書を読み上げるのではなく、自分なりにキャラクターとしての発言に直して話す。
  3. キャラクターの中には、他人に明かすことのできない秘密や目的がある者もいる。
  4. 各人には個別の目標があり、その目標の達成のために会場内を自由に動きながら、調査・交渉・戦闘などを行う。
  5. キャラクターには技能といった能力の違いや戦闘能力の設定があり、それにより分かることやできることに違いがあるため、時には他人の協力を求める必要が生じる。
  6. 会場にも設定があり*11、会場の中を移動することは、物語内の舞台の中でもキャラクターが移動したことを意味する。
  7. 会場内にはシナリオ上意味がある物品が存在しており、物品を使うことで状況が変わったり、物品にスキルを使うことで情報が得られたりすることがある。
  8. 個々人が自由に行動するため、全体像を把握している参加者はおらず、別々の場所で個々人がどのような決断をしたかで、ストーリーや結末が変わっていく。
  9. ゲームとしての「勝ち負け」はない。*12

こうみると、「殺人事件の謎解き」や「犯人に関する投票」がないという以外はマダミス、特に密談のあるオープン型のマダミスに似てそうですね。もちろん、大きな謎があってそれを皆で解く、という要素はマダミスの必須要素であり、これがない時点で大きくプレイ感が異なります。

さらに、「会場内での移動がキャラクターの移動でもある」「物品をカードなどで表すことは避けられ、物理的な物を使うことが好まれる」「キャラクターが物を探す、箱を開けるなどの行動を実際に参加者が行う体験が重視される」「目的達成を点数などで運営側が評価することはない」といった違いもあります。

これらの違いやシナリオの設計により、群像劇LARPではマダミスとは異なるLARP独特のプレイ感が生まれます。このLARP独特のプレイ感を私は「LARPみ」とよんだりするのですが、このプレイ感はときに没入的です。「私は○○というキャラクターの人生をそのとき生き、私の決断が○○の決断であった」というプレイ感を産むことができれば、群像劇LARPは成功と言えるでしょう。

マダミスとLARPの距離:再び

さて、マダミスと群像劇LARPが近いが違う、という私の説明には納得してもらえたでしょうか。十分説得的に書けた気はしませんし、結局は両方体験しないと分からないのではないかとも思います。

ここは、両方経験して両方のシナリオを書いて運営してきた身として、

  1. マダミスが好きな人、特にキャラクターとしての決断やロールプレイ面や他のキャラクターとのやりとりが楽しいと思う人は群像劇LARPも楽しめそうですよ。
  2. マダミスとLARPはお互いに学び合うことのできる位近く、借りたり貸したりできる技法が多そうですよ。

とお伝えしておくこととします。群像劇LARPをまた提供して、マダミスプレイヤーの人に「群像劇LARPはどうでしたか?」と感想を聞ける日が来るのを願うばかりです。

*1:LARPについては、2015年7月に秋葉原卓ゲー部で開催された国内初のクトゥルーライブ『秘密のオークション』にプレイヤーに参加した後、その後のクトゥルーライブの開催に関わり、現在は群像劇LARPの開催を中心とするクトゥルーライブサークル:マスカレイドのコアメンバーです。同サークルの演目の一つ『銀行強盗vsインディアンノッツ銀行』の主筆を務めました。また、ファンタジー系を中心としているLARPサークル「レイムーン」でも活動していて、『イクタビの塔』というファンタジーLARP用のシナリオクリア型LARPも書いています。また、昨年のコミケに合わせて全国のLARP団体からの寄稿を集めて『LARPシナリオ大全』をまとめました。

*2:マダミスについては、2014年10月に『銀の弾丸事件』、2018年8月に『ミスカトニック大学図書館に潜む者』を体験し、ミスカ大の方ではその後GM/NPCもしています。その後、新作マーダーミステリー大賞に応募するためにこの二つの作品の影響を受けた『同胞による陪審』を書きました。残念ながら完成作を大賞に応募するには至りませんでしたが、これまでテストプレイ含めて8回開催していて、おおむね好評を得られているようです。これらのシナリオはいずれもいわゆる「クローズド型」ですが、いわゆる「オープン型」のシナリオとしては、『何度だって青い月に火を灯した』『ヤノハのフタリ』『人狼村の祝祭』『ダークユールに贖いを』『王府百年』を遊んでいます。

*3:「マダミスと人狼の距離」や「マダミスとTRPGの距離」も面白いお題ですが、これはLARP アドベントカレンダーの記事ですので、踏み込みません。

*4:それぞれの項目には、例外もあります。例えば、犯人は一人ではなく、共犯者がいて、2人を当てないといけない作品があるかもしれません。

*5:作品によって、自分が犯人を当てさえすれば得点が入る方式や過半数で犯人を当てないといけない方式などがあります。

*6:私はクローズド型と書いていますが、クローズ型と書かれる場合もあります。意味は同じです。

*7:シナリオクリア型LARPは日本におけるストーリーLARPの主流です。このため、単にLARPとよばれたり、コンバットLARPと区別するためにストーリーLARPとだけ呼ばれることの方が多いです。今回はストーリーLARPの中でも群像劇LARPと比較する必要があるため、シナリオクリア型LARPという名前をあててみました。システムとしては、ファンタジー系の「ソードワールド2.0 LARP」「エピック・オブ・プレアデス」「パトリア・ソーリス」などはシナリオクリア型を想定しています。「ダンジョン・ダイバー」はダンジョンをうろついて宝漁りをするプレイスタイルも想定されています。ホラーの「メメント・モリ」はシナリオクリア型ではありますが、設定を配布したりプレイヤー間対立要素があることもあります。

*8:システムとしては「クトゥルー・ライブ」が使われています。

*9:ここでは私の経験がなかったり足りないかったりする「散華」や動画を使ったオンラインLARP、手紙LARPといったLARPについては触れません。

*10:主にマスカレイドが行うクトゥルーライブの特徴をまとめていますが、アビソミニアの「遺産相続LARP」も群像劇LARPの要素を多く備えています。

*11:秋葉原にある秘密のオークション会場、とある別荘の地下室、1920年代テキサスの銀行……など。

*12:参加者が勝ち負けを感じるのは自由です。例えば、キャラクターが死んだら負けと感じる参加者もいるかもしれませんが、「やるべきことをやりきって死んだ」と感じられれば、負けとは感じないかもしれません。